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東京高等裁判所 昭和34年(ネ)1321号 判決 1960年10月08日

控訴人 新海標

被控訴人 甲府石油有限会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、左に記載するほか原判決の事実摘示と同じであるから、これを引用する。

一、控訴代理人は、

取り消された行為は初めより無効であることは法の大原則である(民法第一二一条)。民事訴訟法においても、原判決取消の控訴判決によつて第一審判決は初めよりその効力を失うものとされている。然らば仮処分決定の場合もこれと同一であるべきは当然であつて、殊に、本件のように、本案訴訟たる社員総会決議取消の訴が、出訴期間徒過のため却下され、それがため仮処分も取り消された場合においては、特別事情または事情変更による仮処分命令取消の場合と異なり、法の大原則にもどり、先になされた代表取締役込山武義の職務執行停止代行者選任の仮処分も初めに遡つて無効となり、同人は初より代表取締役としての職務執行の権限を失なわなかつたものといわねばならない。

また、有限会社法第四一条商法第二四八条が社員総会決議取消の訴につき三か月の除斥期間を規定したのは、会社の機構の不安定をなるべく速やかに確定するとともに、会社と取引をする第三者を保護する趣旨に出たものである。仮処分により職務執行停止中の代表取締役の行為であるとの理由で、その行為を絶対に無効とし、後に本案の訴が却下され右仮処分が取り消された場合においてもなおこれを無効とするのは、会社内部の紛争のため第三者に不測の損失を及ぼすものであり、とうてい是認できない。

なお、本件公正証書に記載されている消費貸借が成立した日時および弁済期はそれぞれ昭和三一年一二月二七日および昭和三二年一月九日で、いずれも込山武義の職務執行を停止する仮処分命令が発せられた昭和三二年一月一七日より以前である。

と述べた。

二、被控訴代理人は、甲第二、第三号証を提出し、乙第五号証、同第七ないし第一六号証の成立を認め、控訴代理人は、乙第五ないし第一六号証(第一〇号証は一、二に分れる。)を提出し、甲第二、第三号証の成立を認めた。

理由

訴外込山武義が被控訴会社の代表取締役として本件債務名義たる金銭消費貸借契約公正証書の作成を委嘱した行為が無効であるとして、右債務名義の執行力の排除を求める被控訴会社の本訴請求については、当裁判所も、左記のとおり訂正付加するほか、原判決の理由に説明するところと同一の理由により、これを正当として認容すべきものと認めるので、原判決の理由の記載を引用する。

一、成立に争いのない甲第一号証、乙第五号証によれば、被控訴会社代表取締役としての訴外込山武義は、昭和三一年一二月二七日被控訴会社と控訴人との間に金三〇万円の消費貸借契約がなされたとして、昭和三二年二月九日訴外北条栄を代理人として、控訴人とともに、甲府地方法務局所属公証人上田隆雄に本件公正証書の作成を委嘱せしめたものであることが認められる。(原判決の理由中、右消費貸借成立の日時を昭和三二年二月九日としている部分は右のとおり改めらるべきである。)

二、控訴人、取り消された行為は初めより無効であることは法の大原則であるとして、本件代表取締役の職務執行停止代行者選任の仮処分も、本案訴訟が却下され、仮処分が取り消された以上、右仮処分によつて定められた仮の地位は遡つて消滅に帰する旨主張するけれども、そのしからざることは原判決にも説明しているとおりである。元来、前記のような職務執行停止代行者選任の仮処分は、代表取締役等職務執行者の地位すなわちその資格の得喪につき争いがあり、その者の職務執行が違法であることが疎明せられ、係争法律関係の確定にいたるまでその職務執行を継続せしめるときは会社に著しい損害を生ぜしめるおそれがあると認められるというような場合に、これを防ぐ方法として、一時右の者の職務執行の権限を剥奪し、他の適当な者にその権限を与えて代行せしめるものである。すなわち、右仮処分はこのような仮の地位を創設するものであり、それは第三者に対する関係においても効力を生ずるものというべく、したがつてまた、職務の執行を停止せられた者が仮処分の趣旨に反して行なつた行為は、絶対に無効であつて、単に仮処分債権者に対抗し得ないに止まるものではないのである。これらの点から考えてみれば、職務の執行を停止せられた者の右の無効な行為は、後に仮処分債権者が本案訴訟で敗訴し、あるいは前記仮処分が取り消されても(特別事情もしくは事情変更を理由とする場合はもちろん、異議訴訟において、当初から仮処分が不当であつたものとして取り消された場合であつても)、これがために遡つて有効となることはないものと解すべきである。本件において、本案の訴が出訴期間経過のため却下され、その後先になされた仮処分を取り消す旨の決定がなされたからといつて、これと結論を異にすべき何らの理由もない。

控訴人は、右のような解釈をとるときは、会社内部の紛争のため第三者に損害を及ぼすことになると主張するけれども、職務執行停止代行者選任の仮処分がなされたときは、裁判所の嘱託により、その旨の登記がなされるのであるから、これによつて右のような損害を生ずることを防ぐことができるわけである。もし、控訴人の主張するように、前記仮処分によつて定められた仮の地位が遡つて覆滅されることがあるとすれば、代行者の行為は無効となり、これと法律行為をした相手方が不測の損害をこうむる場合を生じ、このようなことこそ是認できないところといわなければならない。それゆえ、控訴人の主張は採用することができない。

以上説明のとおりであつて、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当で、本件控訴はその理由がないので、民事訴訟法第三八四条第一項によりこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 原増司 山下朝一 多田貞治)

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